鈴と小鳥とそれから私とサウナ

【読書記録】「出版禁止」長江俊和

出版禁止 (新潮文庫)

出版禁止 (新潮文庫)


長江俊和氏の「出版禁止」を読んだ。
ひじょーにリーダビリティの高いエンタメ作品だった。

僕の大好きな、終盤の1行でひっくり返る系。
そうとは知らず読んでたので、(知ってて買ったのかもしれないけど積んでるうちに忘れてたのかも)気持ちよくゾクッとさせられて満足。
1行でひっくり返る系というと、有名どころだと綾辻行人氏「十角館の殺人」や乾くるみ氏「イニシエーションラブ」なんかが上がると思う。
どっちも1行が目に入った瞬間に脳天に突き抜ける爽快さにアドレナリンがドバドバでてくる。
本作も上記作ほどのどんでん返しではないにせよ、思わずバードスキンの結末がある。
サウナで読んでたから鳥肌にはならなかったけど。

本作は、出版禁止となったルポ記事「カミュの刺客」を著者が紹介するという形をとっている。
これがどうにも紛らわしく、途中まで実話かと思って読み進めてしまった。
語り手が著者本人というのがまた意地が悪い。
終盤で、作中ルポ記事に関する著者による解説があるが、著者自身が紹介する形を取っているため、ロートレック荘みたいな嫌味ったらしい解説になっていない。のがいい。
ロートレック荘もどんでん返し系で、好きな人は多いので読んでみるといいと思う。俺は嫌いだけど。
ラスト4ページはエモかった。

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

ロートレック荘事件 (新潮文庫)





で、この「カミュの刺客」、内容は、7年前に起きた、ドキュメンタリー作家と不倫相手による心中事件について取材するというもの。
取材相手は、そのとき一命をとりとめた不倫相手の女性、進藤七緒(仮名)。
ルポ記事の執筆者、若橋呉成(仮名)は、ドキュメンタリー作家が生前に政治家の腐敗を批判する作品を公開していたことから、「心中に見立てて闇に葬られた」のではないかと考え、事件を追っていた。
難航しながらも進んでいた取材は、ある日の七緒の体調不良から一転し、物語は意外な方向へ、最後は2転3転して真相が明らかに!(ならない部分もある)
みたいな。

以下、ネタバレあります。





いや、お前かよ。

びっくりしちゃった。(小学生の感想)
このひっくり返り方は「ダン・バインです。」と同質のアレだね。
さんざん疑っといてお前の方かよという。
取材記事ということもあって、作中では事件に関わる人間関係や当時の様子が徐々に明らかになっていく。
ただ、それは結局ラストのひっくり返しの味付けでしか無かったわけだ。

もう1つのどんでん返し、「実は七緒は◯◯◯ていた」。
別荘シーンのあとの新聞記事で、若橋が実は女性だったオチかとおもったらもっとえげつないやつだった。
調理シーンとか、わかってから読むとうまく書いてるよね。
「ドア」ってそっちかよっていう。
「わかはしくれなり」と「しんどうななお」のアナグラムについては以下のページを読ませていただいた。

www.shohei.info


めちゃくちゃわかりやすいな。この記事。


個人的に読み返してうまいな〜と思ったのは別荘の鍵を受け取る時。
「七緒は、車から降りずに助手席で待っている」と記述がある次のページには、「助手席のボストンバッグを手にとって」とある。
人形館の殺人」のガウン云々のアレを思い出した。

人形館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

人形館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)




注意深く情景を思い浮かべられていたら違和感に気づけたんだろうな〜。
他にもありそうだな。
まだまだ読書力が足りん。精進せねば。


おわり。